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「CO₂排出量」を考える上でおさえておきたい2つの視点

「CO₂をはじめとした温室効果ガス(GHG)排出削減」という地球規模の課題に向けて、国際的な枠組みである「パリ協定」が2016年に発効しました。各国のCO₂排出量のうち、燃料の燃焼や、供給された電気や熱の使用にともなって排出される「エネルギー起源CO₂」の占める割合は多くの国で高いことから、「CO₂排出とその削減」というテーマはエネルギーについて考える上でも表裏一体のものとして考える必要があります。そこで、今回はあらためて、「CO₂排出とその削減」の押さえておきたい2つの視点についてご紹介しましょう。


「CO₂排出」を要因で分解してみると、打つべき対策がわかる

CO₂排出量を減らすため、私たちは何をすればいいのでしょう?一般的に、経済が成長すればするほどCO₂排出も増えるという相関関係があると言われています。しかし、CO₂排出量を減らしたいからと経済成長を抑え、私たちの生活の質を落としたりするのでは意味がありません。経済成長を続けつつ、CO₂を削減していくためには、どのようにすればよいのでしょうか?

その対策を考えるためのヒントが、次の式に表されています。

 
CO₂排出量
 

この式は、CO₂を排出する主な要因を分解し、式の形で示したものです。東京大学名誉教授の茅陽一氏が提示し、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)でも参照されるなど、世界的に知られています(茅恒等式)。この恒等式は、2019年3月に日本経済団体連合会(経団連)より公表された「パリ協定に基づくわが国の長期成長戦略に関する提言(経団連HP参照)」においても、「S+3E(エネルギーに必要な「安全」+「経済性」「安定供給」「環境」の頭文字をとったもの)を高い次元で確保した『エネルギー転換』に取り組んでいく」ための評価軸として、参照されています。

この式によれば、「CO₂の排出総量」は、「①エネルギー消費当たりのCO₂排出量」、「②経済活動のエネルギー効率」、「③人口1人当たりの経済水準」、「④人口」のかけ算で表すことができます。

つまり、CO₂の排出量を減少させるには、①の値を低くすること――たとえば「エネルギー供給の低炭素化(従来の石炭・石油から、ガスのような低炭素な燃料へと転換していくこと)」を進める、②の値を低くすること――たとえば「省エネルギー」を進める、さらに③の値を低くすること――たとえば「経済活動量の低減」を進めるなどの方法をとる必要があります。しかし、GDP(③×④)の成長は確保しつつ、CO₂排出量削減を進めるには、①「エネルギー供給の低炭素化」や②「省エネルギー」を図ることが必要になる、というわけです。

では、最近の日本では、これらの要素はどのように変化しているのでしょうか。2017年の日本の数値を、2010年と比べながら具体的に見てみましょう。①「エネルギー供給の低炭素化」については、7.4%の増加となりました。これは、2011年の東日本大震災後に全国で原子力発電所が停止し、それによって生じた電力の不足分を、CO₂排出量の多い火力発電を焚き増すことで補ったために、エネルギー供給の「排出原単位」(一定量の電気をつくる場合のCO₂排出量)が増加したことなども影響しています。

②「省エネルギー」の進捗状況としては、LEDなどの導入、省エネ率の高い産業用ヒートポンプやモーターの導入促進、次世代自動車の普及促進などさまざまな対策を進めた結果、15.5%の削減率になっており、進んでいる状況です。一方、「GDP」(③×④)は7.7%増加しています。

これらの要素をかけ合わせた結果、2017年の日本のCO₂排出総量は、2010年に比べて2.2%の削減となります。また、今後さらなる削減を進めるためには、「エネルギー供給の低炭素化」、あるいは「電源の非化石化」(石油やガスといった化石燃料以外のエネルギーを使って電気をつくること)で①の値を低くするのがもっとも大きな課題となるということが、この式からわかるのです。


始めから終わりまで、排出するCO₂のすべてを考える「ライフサイクルCO₂」

もうひとつ、CO₂排出量を見ていく上で重要なのが「ライフサイクルCO₂」という考え方です。CO₂は、モノが工場などで製造されている時だけではなく、原材料を集めたり精製したりする時や、消費者によってモノが使用されている時、モノが廃棄される時にも排出されます。この、モノが生まれてから廃棄されるまで一連の流れのなかで排出されるCO₂をすべて含めて考えよう、というのが「ライフサイクルCO₂」です。

これは、環境問題を議論する際に1990年代頃から取り入れられるようになってきた、「ライフサイクルアセスメント」という考え方に基づくものです。現在では、「ISO(国際標準化機構)」が策定する、組織の環境配慮に関する国際規格「ISO14000シリーズ」のひとつを構成する規格となっています。

エネルギーに関しても、発電所が稼働しているときだけでなく、発電所が建設されてから廃棄されるまで、また燃料が採掘されてから輸送・加工というプロセスをたどり、最後に廃棄物として処理されるまで、CO₂は常に排出され続けています。そのため、エネルギーのCO₂排出量についてもライフサイクルで捉えてみるというのは、意味のある視点のひとつとなります。

では、今の日本の各電源(電気をつくる方法)について、それぞれのライフサイクルCO₂排出量がどうなっているのかを下のグラフで見てみましょう。

 
各種発電技術のライフサイクルCO₂排出量
各種発電技術のライフサイクルCO₂排出量

(出典)電力中央研究所「日本における発電技術のライフサイクルCO₂排出量総合評価」
より抜粋

 

このグラフを見ると、石炭・石油・LNG(天然ガス)を使った火力発電のライフサイクルCO₂は、ほかの電源と比べて高いことがわかります。石炭・石油・LNGは燃焼時にCO₂を多く排出する化石燃料であることから、ライフサイクルの中でも発電時のCO₂排出量が多くを占めています(上のグラフの「発電燃料燃焼〔直接〕」部分)。こうした観点から、火力発電のCO₂対策は重要となることがわかります。

ただ、一方で火力発電は、太陽光や風力など天候によって変動する再生可能エネルギー(再エネ)の不安定さをおぎなっていくためには、“調整役”として欠かせないものであることを忘れてはなりません(サイト内リンクを開く「再生可能エネルギー拡大に欠かせないのは『火力発電』!?」参照)。このため、資源エネルギー庁では、化石燃料から排出されるCO₂を“資源”として捉え、これを分離・回収して再利用する「カーボンリサイクル」をすすめています。

これに対し、太陽光、風力、地熱などの再エネは、発電所の建設や廃棄などの過程ではCO2を排出するものの、発電時にはCO2を排出しません。同じように、原子力発電もウラン燃料の製造や発電所の建設といった過程ではCO2を排出しますが(上のグラフの「その他〔間接〕」部分)、発電時にはCO2を排出しません。日本はエネルギー資源の多くを輸入に頼っていますが、この評価では海外から運搬する際に排出されるCO2も考慮にいれており、それを含めても再エネ発電や原子力発電のライフサイクルCO2は低くおさえられていることがわかります。


出典:資源エネルギー庁ウェブサイト(https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/lifecycle_co2.html

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