未来はCO2が役に立つ?!その仕組みとは
■地球温暖化の原因になっているといわれるCO2の排出量を減らすことは、今やグローバルな課題になっています。エネルギー分野においては、CO2排出量の少ないエネルギー資源への転換をはかること、省エネルギーに努めることなどが大切です。加えて、CO2を分離・回収して地中に貯留する「CCS」、分離・回収したCO2を利用する「CCU」も、大気中のCO2を削減するための重要な手法として研究が進められています。このようなCO2の利用をさらに促進するべく、研究開発をイノベーションにより進めようという取り組みが、「カーボンリサイクル」です。CO2はどのように利用できるのか、その可能性と必要な技術について見てみましょう。
CO2を素材や燃料として再利用する「カーボンリサイクル」
CCUでこれまで一般的だったのは、「EOR(原油増進回収技術)」と呼ばれる手法への利用です。たとえば、油田にある原油をできるだけ回収するためには、水などを、圧力をかけて注入し(圧入)、岩石の小さな穴などに溜まっている原油を押し流します。この時、水の代わりに炭酸ガスを圧入するのが、CO2を使ったEORです。
もうひとつ、現在一般的なCO2の利用先としては、ドライアイスや溶接などに直接利用する方法があります。しかし、こうした方法だけでは、利用されるCO2の量は限られてしまいます。
そこで、CO2を“資源”ととらえ、素材や燃料に再利用することで大気中へのCO2排出を抑制する、そのために世界の産学官連携のもとで研究開発をおこないイノベーションを進めていこうとする取り組みが、経済産業省が提唱する「カーボンリサイクル」です。CO2の利用先としては、①化学品、②燃料、③鉱物、④その他が想定されています。
①化学品では、具体的には、ウレタンや、プラスチックの一種でCDなどにも使われるポリカーボネートといった「含酸素化合物(酸素原子を含む化合物)」が考えられています。また、バイオマス(サイト内リンクを開く「知っておきたいエネルギーの基礎用語~地域のさまざまなモノが資源になる『バイオマス・エネルギー』」参照)由来の化学品や、汎用的な物質であるオレフィン(ポリプロピレンやポリエチレンなどの樹脂の総称)も利用先となりえます。
②燃料では、光合成をおこなう小さな生き物「微細藻類」を使ったバイオ燃料や、バイオマス由来のバイオ燃料がCO2の利用先として考えられています。
③鉱物では、「コンクリート製品」や「コンクリート構造物」が考えられています。具体的には、コンクリート製品などを製造する際に、その内部にCO2を吸収させるものなどです。
最後に、④その他として、バイオマス燃料とCCSを組み合わせる「BECCS」、海の海藻や海草がCO2を取り入れることで海域にCO2が貯留する「ブルーカーボン」などが考えられています。これらは総称して「ネガティブ・エミッション」と呼ばれます。
2030年頃、CO2を再利用した製品が普及するかも?
これらの技術は、それぞれの分野では研究開発が進められ、一部では製品になっているものの、目標や進度はバラバラでした。
たとえば、CO2を使ったポリカーボネートはすでに製品になっていますが、これは製造過程で有害物質が生じる石油由来製法の代替としてCO2が使われているもので、CO2削減を目的としたものではありません。そのため、現状では、製造過程で排出されるCO2の方が、利用されるCO2より多くなっています。今後CO2を排出しないエネルギーを使うことなどができれば、CO2削減にも役立てられるかもしれません。
また、コンクリート製品でもCO2を使ったものがすでに開発されていますが、ブロック形式のものしかないため建物の基礎には使えない、あるいは通常のコンクリートよりも酸性に近い性質になり、鉄筋が錆びやすくなることから、そのままでは鉄筋コンクリートに使えないなどの弱点があり、現在では道路ブロックなどにしか使われていません。技術開発を進めることで弱点が解決できれば、より多くの消費につながるかもしれません。
このようなバラバラなものをまとめ、技術の現状を把握し、理解・認識を共有することで、研究開発が効果的かつスピーディーに進むようにするため、経済産業省は、各分野で研究開発が必要な技術的な課題を整理した「カーボンリサイクル技術ロードマップ」を、2019年6月に公表しました。
ロードマップでは、2030年頃までを「フェーズ1」とし、カーボンリサイクルに役立つあらゆる技術について開発を進めるとしています。特に2030年頃から普及することが期待されている技術については重点的に取り組むことが掲げられています。
2030年以降、2050年頃までは「フェーズ2」として、CO2利用の拡大を狙います。ポリカーボネートや液体のバイオ燃料は普及しはじめ、コンクリート製品も道路ブロックのような小さな製品は普及しはじめると予想しています。しかし、これらだけではCO2の利用量が限定的であるため、特に需要の高い汎用品をつくるような技術について、その後も重点的に開発に取り組んでいきます。一方、CO2を分離・回収する技術も、2030年頃までには低コスト化をはかります。
2050年以降のフェーズ3では、さらなる低コスト化に取り組みます。CO2を分離・回収する技術は、現状の4分の1以下のコストを目指します。ポリカーボネートなどの既存の製品は消費が拡大し、一方でオレフィンやガス燃料、汎用品のコンクリート製品はこの頃から普及しはじめることを狙います。
CO2をもっと使うためには、どんな技術が必要?
では、これらの領域で実際にCO2の利用を進めていくためには、どのような技術開発が必要なのでしょうか?ロードマップでは、どの技術が現在どういった状況にあり、どういった課題を抱えているか、また現在の価格についても整理しています。2030年に向けて、まずは低コスト化が必要であることがわかります。
※1価格は事務局調べ ※2基幹物質、化学品(一部の含酸素化合物の除く)、燃料の多くの技術は普及するために安価で、大量のCO2フリー水素が必要。バイオマス由来の場合にも水素化処理等に用いる水素が必要。
多くの技術において、安価なCO2フリー水素は必須です。現在は主に天然ガスから水素を生成していますが、生成にはエネルギーが必要となってしまいます。また、CO2を分解したり結合したりするためにも、エネルギーは必要となります。しかし、エネルギーをつくるためにCO2を排出してしまっては意味がありません。そのため、カーボンリサイクルでは、CO2排出量が実質ゼロの電気「ゼロエミッション電源」を活用してCO2フリーの水素をつくることが重要となります。
「水素基本戦略」(サイト内リンクを開く「カーボンフリーな水素社会の構築を目指す『水素基本戦略』」参照)では、2050年の水素のプラント引渡し価格を1Nm3(空気量をあらわす単位)あたり20円としており、カーボンリサイクル技術ロードマップでも、その価格をターゲットにしています。ただし、そうした価格になるまでに必要な技術として、水素を使わない合成技術や、水素が高コストであってもそのコストを吸収できる高付加価値な製品の開発なども求められます。
カーボンリサイクルは、たとえ少しの量であっても、既存の製品をカーボンリサイクルの技術を用いた製品に置き換えたぶんだけ、CO2を利用し削減に繋げることができます。費用対効果をふまえつつ、ひとつでも多くの分野で技術を確立し、普及を目指していくことが求められます。
出典:資源エネルギー庁ウェブサイト(https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/carbon_recycling.html)