新電力ニュース
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東北エリアで見る地熱発電の現場(前編)

山葵沢(わさびざわ)地熱発電所(秋田県湯沢市)
山葵沢(わさびざわ)地熱発電所(秋田県湯沢市)

■地下に眠る「地熱エネルギー」を利用して電気をつくる「地熱発電」。CO2の排出量はほぼゼロ、燃料費もかからず、天候などに左右されない安定性の高い国産エネルギーです。世界有数の火山国である日本は世界第3位の地熱資源量を持ち、さらなる活用が期待されています。今回は、地熱発電に盛んに取り組む地域のひとつである秋田県湯沢市を訪ね、地熱発電所の現場をご紹介しましょう。


地熱発電のしくみとメリット

地熱発電は、地下深くの「地熱貯留層」から、マグマの熱で温められた高温高圧の蒸気・熱水を取り出し、その力を利用してタービンを回すことで発電します。この、蒸気・熱水を取り出す井戸を「生産井(せいさんせい)」と呼びます。

発電方法のひとつである「シングルフラッシュ発電」では、蒸気・熱水は「気水分離器」で蒸気と熱水に分けられて、蒸気は発電に使われ、熱水は「還元井(かんげんせい)」という井戸を通してふたたび地下へ戻されます。発電に使われた後の蒸気は、「復水器」と呼ばれる設備で冷却水を浴びて水に戻され、ファンのついた「冷却塔」で冷やされた後、冷却水としてふたたび復水器に送られますが、余剰の冷却水は「還元井」から地下へと戻されます。このサイクルを繰り返すことで、安定的に蒸気・熱水を取り出すことができるようになり、持続的な発電が可能となるのです。
地熱発電のしくみ
地熱発電のしくみ

一方、「バイナリー発電」という発電方法は、地熱貯留層から取り出すことのできる蒸気が少なく熱水が多い場合に用いられます。こちらでは主に熱水を使って、水より沸点の低い液体を沸騰させて蒸気に変え、この蒸気を発電用のタービンを回すことに使います。この時も、使われた蒸気・熱水は還元井を通して地下に戻されます。

日本には2019年6月末時点で、設備容量にして合計約57万kWの地熱発電所があり、その多くは東北と九州に集中しています。九州には、11万kWと国内最⼤の発電設備容量を誇る八丁原発電所が大分県にあります。一方東北には、国内で初めて商用運転を始めた岩手県の松川地熱発電所が、50年経った今も稼働しています。
1MW以上の地熱発電所
1MW以上の地熱発電所


地熱発電が活用されている実際の現場を見てみよう

そんな地熱エネルギーの利用が活発なエリアのひとつが、秋田県湯沢市です。湯沢市は、太古の火山噴火の痕跡が残り、今も豊富な地熱エネルギーが埋蔵されるエリアです。そのエネルギーの豊かさは、川底から高温の蒸気と温泉が噴き出ている「小安峡大噴湯(おやすきょうだいふんとう)」や、湯気や噴気で山肌が白くなった「川原毛(かわらげ)地獄」、温泉などの観光スポットにも見ることができます。
1MW以上の地熱発電所
1MW以上の地熱発電所

この豊富な地熱エネルギーが、発電に利活用されているのです。
上の岱(うえのたい)地熱発電所
1981年(昭和56年)に東北電力株式会社と同和鉱業株式会社の共同調査が始まり、1994年(平成6年)に営業運転を開始した発電所です。生産井は13本、還元井は3本で、現在は、28,800kWの電力を供給しています。
ログハウス風のPR館(手前)と、ずらりと並ぶ小型の冷却ファン(奥)
ログハウス風のPR館(手前)と、ずらりと並ぶ小型の冷却ファン(奥)
上の岱地熱発電所は山の中に位置しますが、景観に配慮して自然になじむ色を使っており、敷地内にあるPR館も、ログハウス風に出来ています。冷却塔のファンも小型を使い、できるだけ建築物の背を低くしています。また、この地方の特性を反映し、積雪に耐えることのできる設計になっています。
タービン(左) 発電状況をモニタリングしている監視盤(右)
タービン(左) 発電状況をモニタリングしている監視盤(右)
地熱発電の運営は、基本的にはあまり手間がかかりません。ここ上の岱でも、24時間監視やパトロールはおこなわれているものの、センサーで異常値が出れば関係者へ自動的に警報が送られるしくみが設けられており、遠隔監視・制御が可能です。

運転開始から25年以上が経過していますが、設備利用率は70%以上をキープしています。これは非常に優れた利用率であり、地下資源を大切に使っているからこそ達成できている数値です。
生産井(左) 還元熱水ピット(右)
生産井(左) 還元熱水ピット(右)
山葵沢(わさびざわ)地熱発電所

2019年5月に湯沢市に開設された、日本でもっとも新しい大規模地熱発電所です。9本の生産井と7本の還元井があり、46,199kWの発電設備容量を誇ります。
山葵沢地熱発電所の生産基地。真ん中に2つ並んで見えるのが気水分離器、手前右側にあるのが減圧気化器
山葵沢地熱発電所の生産基地。真ん中に2つ並んで見えるのが気水分離器、手前右側にあるのが減圧気化器
ここでは、生産井から取り出して熱水と分離した高圧の蒸気(一次蒸気)と、そこで分離した熱水を「減圧気化器」を通して減圧することでつくられた低圧の蒸気(二次蒸気)の2種類が、タービンを回すために使われています。これを「ダブルフラッシュ発電」と言います。
桜色と緑色で塗装されているタービンと発電機
桜色と緑色で塗装されているタービンと発電機
山葵沢地熱発電所の生産井がある生産基地は標高860m~930mに、一方で還元井がある還元基地は標高620m~700mに位置しています。その間の還元熱水輸送配管は、自然になじみやすい落ち着いた色で塗装されています。配管距離はおよそ2.4kmで、光ファイバーなどの先端機器を使用し、熱水の漏洩や温度変化を遠隔で探知できるようになっています。
長く伸びる山葵沢地熱発電所の還元熱水輸送配管
長く伸びる山葵沢地熱発電所の還元熱水輸送配管
山葵沢でも、景観に配慮した建物デザインや、積雪に耐えることのできる設計がほどこされています。また、地下から噴き上げる熱水や蒸気の圧力は日々変化するため、各種センサーによるモニタリングもおこなわれています。
山葵沢でも景観に配慮して小型の冷却塔が採用されている
山葵沢でも景観に配慮して小型の冷却塔が採用されている
実際の地熱発電の現場を訪れてみると、地球の持つエネルギーのダイナミックさに圧倒されます。全国の地熱発電所の中には、事前に申し込みをすれば見学が可能な施設もあります。皆さんもぜひ一度訪れて、地熱という自然の恵みを体感してみてはいかがでしょうか。


出典:資源エネルギー庁ウェブサイト(https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/chinetsuhatsuden_yuzawa01.html

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