「パリ協定」のもとで進む、世界の温室効果ガス削減の取り組み③

地球温暖化への対策として、国際社会は温室効果ガス(GHG)排出削減に取り組んでいます。2016年に発効した「パリ協定」に基づいて掲げた目標に向けて、各国は今、どのような施策を打ち出し、どの程度GHGを削減できているのでしょうか。日本に続きシリーズ3回目では、英国の状況について紹介しましょう。


バランスのよい施策で、GHG削減は進展

英国は、EU全体としてのGHGの削減目標(1990年比で2020年に20%削減、2030年に40%削減)を上回る、1990年比で2020年に37%削減、2030年に57%削減の目標を示しています。現在の進捗状況としては、2016年度時点で41%の削減実績となっています。これは目標ラインと同じ水準であり、最近3年間の傾向を見ても削減の方向になっていることから、現在の傾向を維持できれば、削減目標が達成できると見込まれます(※)。

※「目標ライン」は基準年度の実績と目標年度の実績予測値とを結んだ場合のラインを示しており、年度ごとの特性(政策・経済状況)などを加味して算出した数値ではありません。

 
英国のGHG削減の進捗状況
英国のGHG削減の進捗状況

英国におけるGHG排出の構造はどうなっているのでしょうか。英国の場合、燃料の燃焼や供給された電気や熱の利用で排出される、エネルギーを起源としたCO2(エネルギー起源CO2)の占める割合が79%であり、そのうち25%が発電時に排出されます。エネルギー起源CO2が92%を占める日本よりは低いとはいえ、高い割合です。

英国は、電源の非化石化(石油やガスといった化石燃料以外のエネルギーを使って電気をつくること)と化石電源の低炭素燃料への転換(化石燃料を使う場合には、従来の石炭・石油から、天然ガスのような低炭素な燃料へと転換していくこと)、省エネルギーをバランス良く進めており、これまでのところ、CO2削減は進展しています。

 
▶ 目標「2030年度に57%のGHG削減(1990年比)」に対して、2016年時点で41%の
  削減実績。目標ラインと同水準で、最近の動きは削減の傾向。

▶「非化石電源比率」は、一定の原子力発電比率を維持しつつ再エネ比率を伸ばしている
  ことから、2010年比で約2倍(47%)に増加。火力も天然ガスへの転換を図っている。
 「エネルギー消費」は過去も現在も削減傾向。
 

英国の中期目標とその推移
英国の中期目標とその推移

(出典)IEA World Energy Balances等を基に資源エネルギー庁作成

 

再生可能エネルギー増加により、エネルギー供給の低炭素化が進展

では、GHG削減のために必要な、電源の非化石化や低炭素燃料への転換など「エネルギー供給の低炭素化」はどのように進んでいるのでしょうか。英国は、発電電力量の約2割を占める原子力発電の比率を維持しながら、再生可能エネルギー(再エネ)による電源比率を伸ばしてきました。その結果、再エネや原子力といった非化石電源の比率が、2016年には2010年に比べて約2倍(47%)にまで増加しています。それぞれの電源の状況を詳しく見ていきましょう。
 

英国の電源構成(発電電力量:34万GWh ※2016年)
英国の電源構成(発電電力量:34万GWh ※2016年)

(出典)IEA World Energy Balances等を基に資源エネルギー庁作成

 
①再エネ
英国政府が出した2035年までの電源構成の予測によれば、再エネの電源比率は2020年までに39%、2030年までに53%となる見通しです。このため、2010年4月から、再エネなどで発電した電気を国が決めた価格で買い取るよう電力会社に義務づけた「固定価格買取制度(FIT)」などを通じた導入支援をおこなっています。その結果、再エネの電源比率は2010年の7%から2016年には25%まで増加しました。

しかし、英国では電気料金が上昇しており、とくに大企業向けの産業用電気料金は欧州主要国の中で、もっとも高い水準となっています。そこで、国民の負担を抑制するために、国民が負担することとなっている再エネの買取価格が引き下げられ、2015年からは入札制度が実施されています。2030年に再エネの電源比率の見通しを達成するためには、今後もコストの上昇を抑えながら、再エネの電源比率を上げていく必要があります。

 
欧州の産業用電気料金(大企業向け)
欧州の産業用電気料金(大企業向け)

(出典)Eurostat databaseを基にBritish institute of energy economics作成

 
②原子力
原子力の電源比率については、2030年に22%、2035年には31%の水準が予測として示されています。2019年3月時点では、15基の原子炉が稼働しており、原子力の電源比率は22%となっていますが、稼働中の原子炉のうち8基は2020年代前半に閉鎖が予定されています。こうした中、省エネルギーや再エネだけでは、CO2削減、エネルギー安定供給は果たせないとして、英国政府は原子力発電所の新増設の方針を示しています。

 
③火力
火力発電の比率は、2010年時点で約8割を占めていましたが、再エネの電源比率が高まってきたことで、2016年には約5割まで下がりました。

火力発電の燃料については、1960年代から北海で天然ガスの生産が開始されたため、石炭から天然ガスへと転換が進められてきました。2000年代に入ると北海での生産が減少しましたが、輸入を増やしたため、現在では国産と輸入が半々程度となっています。その結果、天然ガスの比率は、1990年の2%から2016年には43%へと増加しています。

一方、石炭火力発電の比率は、1990年の65%から2016年には9%まで減少しました。英国政府は、排出への対策をおこなっていない石炭火力発電所を、2025年までに閉鎖することとしています。

なお、英国は、2030年には火力発電の電源比率を24%(内訳:ガス火力発電比率24%、石炭火力発電比率0%)にするという見通しを示しています。


省エネルギーは産業部門で大きく前進

もうひとつの重要な施策である省エネルギーについてはどうでしょうか。英国は、2020年の最終エネルギー消費(最終的に消費者が使用するエネルギーのこと)を、2007年に比べて17%相当削減することを目標に掲げています。これまでのところ、最終エネルギー消費は削減傾向にあり、2007年と比べて2016年は15%の削減実績となっています。

しかし、最近のエネルギー消費を見ると、産業・運輸・家庭部門とも、削減はやや足踏み状態となっています。

加えて、エネルギー消費効率(GDPや人口あたりどのくらいエネルギーを消費しているかを示す指標)を見ると、産業・運輸・家庭部門すべての部門で、OECD(経済協力開発機構)平均と比べ、同じ程度かすでに高い水準となっているため、これをさらに改善・削減することは、他国と比べても簡単なことではありません。英国政府は、目標達成のためにさまざまな施策によって省エネ量を積み上げており(うち、建築部門がその半分を占めている)、今後の政策効果が注視されます。

なお、最終エネルギー消費について、2000年から2016年の部門別の変化率を見ると、とくに産業部門で33%と大きく減少しているのが目立ちます。英国では、1990年代後半から2008年ごろにかけて産業構造が変化し、製造業からサービス業への転換が進みました。こうしたことも、エネルギー消費に一定程度影響していると考えられます。

 
英国の2016年最終エネルギー消費の変化率(2000年比)
英国の2016年最終エネルギー消費の変化率(2000年比)

(出典)IEA World Energy Balancesを基に資源エネルギー庁作成


出典:資源エネルギー庁ウェブサイト(https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/pariskyotei_sintyoku3.html